ツィンクとの出会い。
「何でツィンクをやろうと思ったん?」
「どこでそんなん知るん?」
今回は、ツィンク奏者がどうやってツィンクに出会ったのか、その謎に迫っちゃうよ!!
トランペットへの好奇心
始まりは小学校4年生の頃。僕はトランペットを始めたばかりだった。
当時「総合学習」という授業が開始されたばかりで、僕も自分の好きな事を調べようと、トランペットについて色々調べることにした。
何をすればいいのか分からなかったけれど、とりあえず図書室で楽器に関する本がないか探した。本のタイトルは忘れたけど、確か「音楽大辞典」だったと思う。その本には、トランペットの歴史なんかも詳しく書いてあった。トランペットの成り立ちや時代と楽器の構造の変化といったところだ。
そこで見る色々な種類のトランペットや古い楽器たちは、僕の好奇心を刺激した。一番目を引いたのは、どこからどう見てもトランペットには見えない、湾曲した「ツィンク」という楽器だった。
恩師からの贈り物
小学校5年生の頃、吹奏楽部の顧問の先生がCD-Rに色んな音楽を焼いて下さった。吹奏楽やオーケストラ、トランペットのソロ、金管アンサンブルの演奏が収録されていた。その中でも僕の心を奪ったのは、金管アンサンブルの演奏だ。
CDには何の記載もなかったから、誰が演奏しているのかも曲の名前さえも分からなかったけれど、他では聴いたことのない暖かさと冷たさが同居した、そして、どこか懐かしさや力強さを感じさせるような音楽に、僕は虜になった。
その音楽は、僕の憧れになった。
同時にこんなことも考えていた。
「もっと柔らかい音色の方がいいんじゃないか」
「コルネット(現代のピストン付きコルネット)を使ってみたらどうなるんだろう」と。
実に鬱陶しい子供だったろうと思う笑
フィリップ・ジョーンズとの出会い
僕は、子供の頃に聴いた金管アンサンブルの音楽に憧れながらも、ほとんど金管アンサンブルについて勉強してこなかった。というのも、僕の興味は金管アンサンブルにではなく、あの名前も分からない音楽にあったからだ。
ある時、もう20歳くらいになっていただろうか。ふと思い立って改めてそのCDを聴き返し、その音楽について調べる事にした。何も情報はなかったけど、とにかくインターネットで検索しまくった。
すると、You Tubeでアンサンブルコンテストの動画がヒットした。高校生の金管8重奏の演奏だった。その動画の詳細に曲名が書いてあったのだ!
「ルネサンス舞曲集」と。
それを手掛かりに調べたら、すぐにフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル(PJBE)にたどり着いた。僕は驚いた。PJBEの事は、ずっと知っていたからだ。正確には「フランス・ルネサンス舞曲集」という曲名だった。
それからすぐにCDショップに行った。もちろん、PJBEのCDを買う為だ。そこで、何をどうやってそんな事になったのかは分からないけれど、間違えて別のCDを買ってしまった。PJBEの「GOLDEN BRASS」というCDだ。金管楽器の黄金時代を意味するこのCDは、僕が思っていたのとは違っていたけれど、「フランス・ルネサンス舞曲集」と同じ、ルネサンス〜初期バロックの音楽を収録したものだった。子供の頃に「フランス・ルネサンス舞曲集」を聴いた時と、同じような質感を感じたのを覚えている。
このCDのライナーノーツには、興味深い事が書いてあった。
後者(コルネット)は金管楽器とは似ても似つかぬ構造をしており、皮を巻いた木製の管体に指穴があけられている。トランペットとの類似点といえばカップ状のマウスピース程度だが、それにしても口径がずっと小さい。ルネサンスおよびバロック時代の音楽では、人の声とよく溶け合う音色と急速な楽句をこなす能力を備えたコルネットが主役級の活躍を演じていた。
※()内は筆者によるもの。
コルネット??
ピストンが付いてるあれではないのか??
と、正直、疑問だらけだったけど、調べればそれがツィンクのことだとすぐに分かった。「あの時、辞典で見た変なやつや!」と。今思えば、間違えてCDを買って良かったと思う笑
ツィンクは本来コルネットと呼ばれるべき楽器なんだけど、その辺はまた記事にします。
- アーティスト: フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル,アストン,ハワース
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2010/01/27
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
憧れの正体
4年生の時に総合学習で出会った、湾曲した「ツィンク」という楽器。僕の興味そそった楽器。
奇しくも、この「ツィンク」という楽器こそが、僕の憧れた音楽を演奏する為の楽器のだったのだ。
そして、僕が憧れたのはルネサンス〜初期バロックの音楽だということも分かった。
そんなに古い音楽に惹かれていたとは思いもしなかったけれど、ようやく憧れの正体が分かって、とても嬉しい気持ちだった。
それから数年後、僕はツィンクと出会うことになる。
ツィンクとの出会い
僕は、数年前に耳を悪くして入院したことがある。聴力の低下と耳鳴り、痛みが原因。
幸い聴力は戻ったのだけど、完全復活とはいかなかった。退院してトランペットの練習を再開したけど、耳が痛くて練習を中断する事が多かった。トランペットの大きな音が耳にささるのだ。医者からもトランペットを辞めるように言われた。そうじゃないと聞こえなくなる、と。
それでも、なんとか騙し騙し続けていたんだけど、とうとう耳が耐えられなくなった。普段の生活の中でも、急に片耳だけ聞こえなくなったり、明らかに状態が悪化していた。
時期を同じくして、謎の不調で音を奏でる事さえも難しくなっていた。
そこで、もっと音の小さな楽器であれば続けられるんじゃないか、という事で色々考えた結果、いつかやりたいと思っていたツィンクをやってみる事にした。
調べてみると、意外も意外、すぐ近くに今の師匠がいらっしゃる事が分かった。楽器もないし、入手の仕方も値段も何も分からない状態だったけれど、とりあえず連絡を取った。すると、快く受け入れて下さるとの事だったので師匠を訪ねることにした。
師匠はどんな方かなぁとか、音出るかなぁとか、あぁぁぁぁぁとか、不安でドキドキしながらお会いしに行ったのを覚えている。
そして、ついにツィンクとのご対面!
今まで、本でしか見た事なかったツィンクが目の前にある。なんだか輝いて見える!!テンションおかしくなって喋り過ぎちゃってるしどうしよー!ってなりながら、そっと触らせてもらった。
おお!一応鳴る!!音出るやん!!
師匠も吹いて見せてくれた。もうそれが本当にいい音で素敵に演奏されるのよ!!
僕はその日、ツィンク奏者になる事を決めた。
さらなる憧れ
ツィンクを始めてすぐに、コンチェルト・パラティーノという世界的なアンサンブルが来日した。ツィンクとサクバット(トロンボーンの前身)のアンサンブルだ。彼らの演奏に、僕は度肝を抜かれた。
それは、僕が思い描いていた理想の音楽だった。
始めて生で聴いたツィンクとサクバットのアンサンブルは、僕が憧れた音楽を理想的な形で見せてくれたのだ。その柔らかで高度に調和した音色と華やかに装飾された旋律は、僕の新たな憧れとなった。
そう、子供の頃にPJBEの演奏を聴いて思った「もっと柔らかい音色の方がいいんじゃないか」という考えは、間違えではなかったのだ。
なんとも不思議な縁というか、運命めいたものを感じるけど、きっと、どこにでもありふれた出会いだ。
これが、僕とツィンクとの出会いです。